私が子供のころ、近所の鉄塔の黄色い部分はチョコだった

地元にちょっとした鉄塔があります。

なんてことはない鉄塔で、もちろんスカイツリーのような全国的な知名度はゼロ。地元民からは〇〇(地域名)タワーと呼ばれているような、地域密着型の鉄塔です。

 その鉄塔の色は多くの鉄塔にもれず灰色なのですが、上の方の一部分だけが黄色になっています。

 

子供のころ、私はその黄色の部分をチョコレートだと思っていました。

 

誰に言われたわけではありません。

子供の頃って今思えば「なんだそれ」と思うようなデマが子供内ではまかり通っていたじゃないですか。

カラスの羽は毒しかり、B型の血の色は緑色しかり。

そんな風に誰に「あの黄色の部分ってチョコレートなんだぜ」と言われたわけではありません。

ただ自分でそう思っていました。

 

理由は今でも覚えています。

鉄塔の黄色の部分の「黄色」が、マーブルチョコの「黄色」とよく似ていたからです。

 

だからなんとなく漠然と「チョコなんだろうなぁ」と思っていました。

「チョコだと信じている」とか「チョコだったら面白いな」とかいう妄想や願望ではありません。

あれは確信でした。

 

「マーブルチョコの黄色の感じと似てる。きっとあの部分はチョコなんだろうな」と。

私は鉄塔の黄色の部分がチョコであると”知っていた”んです。

私だけが知っている事実でした。

 

今思えばそれも変な話だと思います。

というのもマーブルチョコの黄色ってなにか独特な、マーブルチョコ独自のものでなく典型的なよくある「黄色」なんですよね。

それでもあの鉄塔はチョコでした。

色鉛筆でもクレヨンでもレモンクレンザーでもバナナでもなく、チョコだったんです。

 

子供って独自の世界で生きているというか、自分の価値観の中で生きてるものなんでしょうか。

「白線の外にはサメがいる」とか「段差の外は底なし沼」とか、そのあたりもこの感覚の延長線にあるもののような気がします。

白線の外にはサメがいて段差の外は底なし沼であると、彼らは知っているのかもしれません。

 

私が子供のころ、近所の鉄塔の黄色い部分はチョコでした。

「鉄塔のチョコの部分」が、いつ「鉄塔の黄色い部分」になったのかは覚えていません。